「SHOE DOG 靴にすべてを。」
起業あるあるが満載
「SHOE DOG 靴にすべてを。」フィル・ナイト著。新聞の書評欄で目にした時には、アメリカの大企業のサクセスストーリーなんて縁遠い話と思っていた。
取材先で、インタビュー相手が直前まで手にしていたので気になって読み始めた。
読み始めると、先入観は覆され、展開に引きつけられていった。
ナイキが立ち上げから、成功を収めるまでの間に、日本の靴メーカーや商社とこれほどまでに深い関わりがあるとは知らなかった。
そして、若者の思いつきと情熱、無謀とも思える挑戦で、世界最高のブランドが形成されていったことに驚かされる。
ビル・ゲイツは本の帯に「読者はすばらしい学びを得るだろう。驚愕の物語だ」と推薦の言葉を記しているが、まさに同意見。
自分自身もそうなのだが、起業家にとってはうなずける「起業あるある」の連続である。
ナイキと比較するなんて、とんでもなく恐れ多いことだが、事業を続けるということは、困難の連続であり、それを乗り越える醍醐味であると確信する。
今後は、三本線ではなく、勝利の女神を買い求めることにしよう。
それにしても、内容が素晴らしいのに、読み終えるのに時間を要した。それは、この本が典型的な翻訳調で描かれているからである。
翻訳文というのは、つまりゆっくりゆっくり前後を確認しながら、読まないと内容が入ってこない。
それはまるで、牛が一度飲みこんだ食べ物を、よくかんでからまた飲みこむように反芻しながらでないと理解ができないからである、とこんな文章になってくる。
翻訳者を悪くいうつもりはないが、どこかの編集者か、ライターが読みやすい文章に直してくれれば、すぐに読み終えることができたのに。
「君たちはどう生きるか」吉野源三郎著
80年前に書かれた児童書
「君は何も生産していないけど、
大きなものを毎日生みだしている。
それは何だろうか?」(吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」)
戦争に向けて国家体制が強まっていく80年前に書かれた児童書が時を超えて、今の自分の心に響く。
80年前にも悩み続ける少年がいた。
スピード第一に解決に導く安直な自己啓発書が安っぽくも見えてしまう。
自分の心に問い掛け、自分で昇華し、自分で答えを見出す大切さ。
龍馬が2度訪れた地、福井
福井藩はなぜ、多くの賢人を生みだしたのか
5年後に迫った北陸新幹線の福井延伸に向けて、この春に特集記事を書いた。
龍馬が幕末に2度訪れた地、福井。
それ以降、幕末期の福井藩に対する関心が一層深まっていった。
福井藩主・松平春嶽公にはじまり、「啓発録」を記した橋本左内、「五箇条の御誓文」の原案を作成した由利公正。
福井藩はなぜ、多くの賢人を生みだしたのか。
龍馬が新しい国家の盟主に思い描いたのは、春嶽公なのか
そんな疑問にこたえるように開かれた講演会に参加する。
京都国立博物館上席研究員、宮川禎一氏の「龍馬の秘策と福井藩」。
龍馬が新しい国家の盟主に思い描いたのは、福井藩主松平春嶽公なのか。
そして新たに心に響いた史実も。
夏の暑い日の有意義な学びの機会。
ブラジャーで勲章をもらった男
出版に関わった方と出会うという偶然
「ブラジャーで勲章をもらった男」。
奇をてらったタイトルだなと書評欄で目にした時から気になっていた。
不思議なことがあるもので、気に留めていると、この書籍の出版に関わり本文中に何度も登場する方と偶然出会う。
印象に残ったタイトルの奇抜さに関わらず、ページを読み進めるとずしんとこたえる哲学がそこにはあった。
草創期のワコールで働き、その後、いろいろなめぐりあわせで独立することに。
起業し、新しい事業を展開していくことの苦しさと醍醐味が詰まっている。
それでも苦しさや暗さを感じさせないのは、著者西田清美氏の魅力だろう。
情熱を保ち続ける、挑戦する心を忘れない
戦後の日本で女性下着開発に打ち込んだ人々の懐の深さと情熱。
企業を維持していくとは、なんとも厳しく、それを乗り越える情熱と知恵がないと進めないことを実感。
筋を通す、情熱を保ち続ける、挑戦する心を忘れない。
晴耕雨読ならぬ晴動雨読
晴耕雨読、優游(ゆうゆう)するには至らず
日本列島は先週来、記録的豪雨に見舞われ、各地で大きな被害が続いている。
被害に遭われた方には、心からのお見舞いを申し上げます。
「晴耕雨読」は、日本の漢学者塩谷節山の詩が出展だとか。
田畑に囲まれ、世俗のわずらわしさから離れて、心穏やかに暮らすことを表現したもの。
理想の暮らしだが、その境地や環境にはたどり着けない。
せめて、晴れた日には目いっぱい外回りし、雨の日には読書にはげみ、原稿書きに集中するのが、目下の理想のスタイル。
そんな暮らしを先輩が「晴動雨読」と名付けてくれた。
その先輩は、リタイアして農業に励む毎日。文字通り「晴耕雨読」。
いつかそんな暮らしを夢見ながら、まだまだ「晴動雨読」の日々。
司馬遼太郎記念館
ものを書くことに携わる者として
大阪へ出向いた際に、足を延ばして司馬遼太郎記念館へ。
今回が二度目の訪問。
新聞記者から作家に転じて、日本人と歴史を追い求め続けた司馬遼太郎氏。
梅雨の晴れ間の蒸し暑い日、駅からは少し離れた記念館まで汗をかきながら到達。
執筆、創作活動を重ねた書斎もそのままに
司馬氏が愛した雑木林風の小さな庭
時空の旅人として、取材と著作を重ねた司馬氏の書斎が執筆されていた当時のままに保存されている。
建物の周囲は、司馬氏が愛した雑木林風の小さな庭が広がっており、コナラやクヌギなどの木々と草花が季節を感じさせてくれる。
緑を好んで鳥や蝶も集まってきており、自然を感じさせてくれる一方で、当然のように蚊も多く、庭を見学している間に、刺されてしまった。
司馬氏自筆の歌碑も移設されて、来館者を見守ってくれる。
安藤忠雄氏の設計による記念館
館内には司馬氏の蔵書も並び、安藤忠雄氏の手による設計は、コンクリート打ちっ放しの建物で、外壁はゆるやかな曲線を描くシンプルな構造。
「竜馬がゆく」、「坂の上の雲」 節目に手にしてきた作品
「記念館」の名称ながら、アーカイブや名所というよりは、禅寺のように考える空間となっている。
中学生の時に読んだ「燃えよ剣」、高校時代に読んだ「竜馬がゆく」、学生時代に読んだ「世に棲む日日」、社会人になってから読んだ「坂の上の雲」。
思えば、節目節目で作品から、大きな影響を受けてきた。
文豪には及ぶべくもないが、ものを書くことに携わる者として、この空間に身を置くと心が研ぎ澄まされる。
次はいつ訪れようか。
北方謙三氏 新シリーズ「チンギス紀」
「私には、言葉という武器がある。
歴史を創った英雄であろうと、言葉が尽きないかぎり、私は書ける。
言葉の先に、物語があるのだ。」 (北方謙三氏「執筆にあたって」)
こんな文章を目にしたら、読まずにはいられない。
ということで、新シリーズ「チンギス紀」を読み始める。
「水滸伝」「楊令伝」に続いての大河小説シリーズ。
「風が吹いている。草が揺れていた。
地平から、単騎、疾駆してくる男の姿が見えてきた。
顔までが、はっきりわかる距離になった。
眼が燃えている。
そして、笑っていた。」 (北方謙三氏「執筆にあたって」)
分かる人には分かる北方ワールド。
北方氏のハードボイルド小説を読み始めて30年余り。
著者も自分も年齢を重ねたな。
この間、北方氏とは2度お目にかかっている。
「金沢はモノトーンの街だな」と語ったことが今も印象に残る。
読み進めると、チンギス紀でもモノトーンの描写に出くわした。
そして、50歳を過ぎても気に入った作家の小説にはミーハー。
ノベルティに引かれて書店で1、2巻を購入。
歴史大河小説との長い付き合いがまた始まる。